『天使の手鏡』・第3章~第5章第3章・『苦悩』・・・第1話〔・・・先生をごまかすわけにはいきませんね・・・その者が言ったことは残念ながら本当です。神様はもうこの世界にはいません〕 「やはり・・・でも、なぜですか?神様の導きなしでどうしろと・・・神様なら荒れ果てたという地上もたやすく元に戻せたはず・・・それに神様に仕えてこその天使だと私は思っているのに・・・」 〔確かにこの世界を創ったのは神様なのだから直すことも壊してしまうことも容易でしょう・・・なぜそれをせず私たちを置いて私たちに任せたのか・・・それは私たちが人の為に作られたからです〕 「それは分かりますが、それだけでは納得できない者が居るのです」 〔それだけではないのです・・・熾天使様、智天使様たちなど神様に近い天使は神様の一部から作られたと言われていますが、私たちは後から人に近いように創られたのです〕 「人に近いように・・・」 〔だから似ているのですよ私たちと人は・・・〕 「悩み、迷い、すぐに神様や他にすがり、頼ってしまう・・・」 〔そうです〕 ショックでした。私たち天使が人に似せて作られたということが・・・ 神様の子・・・私は過信していたのです。 「そういうことだったのですね・・・しかし、これからどうするのです?」 〔先生、離れると愛はなくなるのですか?〕 「いえ、私はそうは思いませんが・・・」 〔皆のことを気にしているのですね?〕 「はい。いずれ、みんなに知れます、それにあのような者が増えていけば恐ろしいことになるのではないかと心配なのです」 〔それも分かっています、もう少しお待ちください。1週間後の祭典の後に智天使様より重大な話があるそうです。おそらくそれで私たちの行方が決まるでしょう、それまでは平然と日々を過ごすしかありません〕 「はい、分かりました」 〔何も力になれず、申し訳ございません〕 「いえ、ここまで来たかいがありました、本当にありがとうございました」 〔私のほうこそ・・・今度は私がうかがいます〕 「ぜひ、その時は自慢のお茶をお入れましょう」 〔それは楽しみですね、先生の入れるお茶は格別ですから。次に会う時は楽しい話ができるといいですね〕 「そうあってほしいです。それではまた・・・」 こうして私はトマスの家を後にしました。 帰りの雲の上・・・なぜか解決もせず、重大な話の後とは思えないほどすっきりした気持ちになっていました。 目の前には雲と空の間いっぱいの大きな月がいつものように私を照らしていました。 私は家に戻り何も考えず眠りました・・・そして、朝、いつもどおりにの生活が始まりました。 次の日もまた次の日も・・・このまま祭典の日まで何事も無く過ぎていくのかと安心していました。 しかし、もう数日で祭典という日の夜でした・・・ ドンドン!ドンドン! 誰かが強くドアを叩きました。 「誰ですか?こんな夜更けに」 〈私です!サラです!〉 私は慌ててドアを開けました。 「サラ!どうしたんだい?顔色が悪いじゃないか・・・とにかく入りなさい」 〈すみません〉 「今、温かいお茶を入れよう、そこに座って少し気を落ち着けて」 〈はい・・・〉 お茶を入れ、戻ってみるとサラはうつむいて今にも泣きそうでした。 「一体、何があったんだ、話してみなさい。その為にここに来たのだろ?」 〈先生・・・生まれ変わりとは本当にあるのですか?〉 「生まれ変わり?・・・天使の魂は肉体ガ滅んでも永遠という、私はあると思うが、それがどうしたんだい?」 〈・・・彼が居たのです〉 「何だって?誰が居たと?」 〈夫です・・・〉 「まさか・・・何処で見たんだい?」 〈地上です〉 「地上?この前は直接、行かないと言っていたじゃないか、それでどうやって・・・どういうことか詳しく話してくれないか?」 〈はい・・・先日、先生と会った後、私は地上が気になり、お祖母さんの形見の地上を見られる鏡で様子をうかがったのです。確かにひどい状態でした・・・直視できないほどでした〉 「やはりそうか・・・」 〈それでも私は信じて人の光を探しました。すると、一握りではありますが、まだ光は残っていました・・・〉 「そうか・・・」 〈その中に彼が居たのです・・・〉 「なんと・・・私が話をしたばっかりに・・・天使の魂が人の魂に変わる、それは悪魔や堕天使の呪いだ・・・」 〈・・・〉 「しかし、鏡とは?地上を見る鏡は上級天使しか持っていないはず、それも使命によって特別に許された者だけしか持っていないはずだが?」 〈私が持っている鏡はこれです。これは私のお祖母さんが神様に直接もらった物だと聞いています〉 「神様に直接!・・・」 つづく。 第3章・『苦悩』・・・第2話 サラがそう言って取り出したのは裏にユリの花の装飾が施された小さな手鏡でした。 「その手鏡が?サラのお祖母さんとは一体・・・」 〈その素性は伏せていましたが私のお祖母さんの名はガブリエルです〉 「ガブリエル?何と・・・あの神の英雄とうたわれた大天使ガブリエルがサラの?」 〈はい・・・〉 「だからサラにも驚く力が・・・」 〈今は肉体を持たず、違う世界から私たちを見守っていると聞いています〉 「一時期、英雄が消えたと噂があったが・・・」 〈先生、お祖母山の事はまた今度で・・・〉 「そうだな、とにかくその話はまたゆっくり聞かせてもらうとして、その彼だが、ただ似ているという事はないか?」 〈違います、似ているだけではありません・・・〉 「なぜ、断定できる?」 〈私は精神を飛ばしてみました。もちろん前世のことは憶えてはいませんでしたが、間違いなく彼の生まれ変わりでした〉 「そうか、天使が人に生まれ変わる堕天使の呪いか・・・いや、そうだとしてもどうすることもできないんだよサラ、分かるだろ?もう、その鏡を見るのはよしなさい」 すると、サラは少し黙り、そして、またとんでもないことを言い出したのです。 〈私は地上に行こうと思っています・・・今、彼はとても苦しんでいます、黙って見過ごせません〉 「バカなことを考えるのはやめなさい!会ってどうしようと言うんだ・・・ あなたは私の夫の生まれ変わりだとでも言うつもりかい?相手にサラが見えるかも分からないというのに・・・」 〈はい、だから先生の所に来たんです〉 「まさか・・・」 〈はい、そのまさかです。私の翼をとってください、私を人に・・・〉 「なんてことを・・・」 天使は普通、人には見えません。天使のほうに見せるという能力が必要です。まして、人のふりをして翼だけを見えなくさせるといううのは上級天使でも難しいほど高度な能力が必要なのです。 そして、それ以外の天使が人の前に姿を見せる唯一の方法が翼を取るということでした。 しかし、それで完璧な人になるということではありません、天使が持つ能力を失うだけなのです。 「悪いが私には出来ない・・・それがお互いの罪になることは知っているだろ?」 〈分かっています。先生だから頼んでいるのです〉 「ダメだ、できない・・・今までにそういう天使がいたと聞いたことはある。だが、幸せになったと聞いたことはないんだ。それにそれは遠い昔のこと・・・ 今の荒れている地上にサラを行かせるわけにはいかない・・・サラだけは・・・」 〈それでも私は・・・何もかも承知の上で先生に頼んでいるのです。でも、どうしてもダメというのなら他をあたります・・・〉 「ダメだ!」 私は思わず大声を上げてしまいました。 〈・・・〉 どうして私は・・・それは「ダメ」ではなく「嫌」でした・・・ 他の者にサラを任せたくなかったのです。 「いくら言っても無駄なのか・・・」 〈はい、必ず私は行きます〉 「分かった、そこまで言うのなら私がどうにかしよう・・・だが、少し待ってくれないか?せめて祭典が終るまで」 〈はい・・・先生の都合の良い日にお願いします。先生・・・本当にありがとうございます〉 「・・・」 〈ごめんなさい、昔から迷惑ばかりかけて・・・〉 「サラ、私は1度も迷惑なんて思ったことはないよ。それどころか慕ってくれて嬉しかったんだ・・・」 〈本当ですか?〉 「あぁ」 〈バカだな私・・・ずっと迷惑しているのかと思っていました。先生がそんな風に思っていてくれてたなんて・・・もっと早くに聞いてればよかったな〉 「そうだ、もっと早くに・・・」 〈・・・でも、もう彼を見てしまったから・・・〉 「仕方ない、運命なのだろう・・・」 〈ごめんなさい・・・〉 「止めても無理なら応援しよう、もう謝ることはない、私が責任をもって見守ってあげよう」 そう言うとサラはまた涙を浮かべました。 〈本当にありがとうございます・・・〉 私はこれ以上、動揺を隠す自信がありませんでした。 「・・・もう遅い、ずいぶん疲れている様だし、帰って休みなさい・・・」 〈はい、おやすみなさい先生・・・〉 〈おやすみサラ・・・」 そうしてサラは帰っていきました・・・ その後の私は悲しみに押しつぶされそうになっていました。 そして、それと同時に感じた事のない感情が湧き上がって来るのです・・・ しかし、私はそれを押し殺し、祭典の日を迎えました。 つづく。 第4章・『祭典』・・・1話 心苦しい数日を過ごし、やっと祭典の日がやってきました。 1年に1度の天使の祭典・・・天使誕生の日。 この日は全ての天使が使命を休み、参加します。 まず朝、祭典の始まりを告げる歌や音楽が天空に鳴り響きます。 天使にとって音楽はとても重要なもので幼い頃より親から習い、誰もが1つ2つの楽器を奏でることができます。 中には音楽を専門(使命)とする歌隊天使という天使たちがいるほどす。 その歌声と演奏は天空に響き渡り、それに合わせて他の天使たちも歌い、奏でるのです。 アウロス(二重笛)・リラ(たて琴)・ティンパニ(たいこ)・トランペット・・・ 天空が揺れるほどの大きな音になります。 私は祈りました。 この音楽がこの世界を去られた神様にそして、地上の人々に届くようにと・・・ そして、音楽が止まると同時に大きな歓声に変わります。いよいよ祭典のメインイベントが始まったのです。 そのイベントというのは東西に別れ、協力して雲を集めて競うという単純なものです。 より大きくより高く積み上げた方が勝ちということです。 もちろんそれも全員参加で皆、本気になって競い合います。祭典が近づくと使命の合間に練習もします。 人はそれを見て入道雲や積乱雲と言うことがあるそうです・・・ 天使は幼い頃より雲を使って遊びます。 不思議な形の雲を見かけたらそれは天使の仕業かもしれません。 〔先生ーこちらに来てください〕 私がほころんで皆の様子を眺めていると近隣の若者が手招きをしました。 もうほとんどの天使が集まったようです。 〔先生、雲を集めるのを手伝っていただきたいのですが?〕 「そのつもりですよ、頑張りましょう」 すると、集まった中心から 〔それでは手はず通り班に分かれて集めましょう。それではみんな頑張りましょう!〕 と、力天使(中級天使で悪と戦う使命を持つ戦士)が声を上げると、皆一斉に飛び上がり、散らばっていきました・・・ こんな光景はこの時にしか見られません、まるで沢山の渡り鳥が一斉に飛び立っていくようでした。 [先生、来てくださったのですね、私たちの班は東の国近くまで雲を取りに行くことになっていますが大丈夫ですか?] 私の班の班長、力天使のヴィクターが声をかけた。 「大丈夫だよヴィクター、さぁ行きましょう」 私はヴィクターと班の先頭を飛びました。 [先生が来るのであれば先生が班長であるべきなのに私など・・・申し訳ありません] 「何を言っている、私が君をすすめたのだぞ、それに君もそろそろリーダーとして皆をまとめる指導力を身につけなければいけない」 [はい、ご期待にそえるよう頑張ります。先生とこうして肩を並べて飛べてとても光栄です] 「君なら大丈夫だ、私が期待した以上によくやっているし、周りからの評判もいい。頑張りなさい」 [はい、ありがとうございます!尊敬する先生に励ましていただけるなんて幸せです] 「やめてくれヴィクター、私はそんなたいした者ではない・・・」 [いえ、皆そう思っています。生まれた時より幾度とお世話になり、相談まで聞いていただき皆、感謝しています。それは先生にしかできない偉大なことです。だから尊敬しているのです] 「そう言ってもらえると今までやってきたことが報われる」 私はまた自分の使命を誇りに思えました。 そうして、話していると目の前に大雲が現れました・・・ 「ヴィクター、この雲かい?」 [はい、さっそく縄をかけましょう] 山のように大きく美しい雲に私たちは雲縄と言う特別な縄をかけました。 それを私たちの班8人だけで運ぶのです。 「ヴィクター、風を」 [はい!みんな、行きますよ!] 天使の中には風を操れる天使が多く居ます、たとえ山のような雲でも風と雲縄で動かすことができるのです。 私たちは掛け声をかけ、進みました。 そして、集める場所に近づくにつれ、私たちのように雲を運ぶ天使たちが数多く見えてきます。 雲の大移動です。 その他の天使たちは近場で小さな雲をせっせと運んでいきます。 [着きましたよ先生、ご苦労様でした。後は私たちがやっておきます] 「分かった、頑張ってくれ」 [はい!] まず積み上げる場所に雲が集まると大きな雲を土台にし、その上に雲を重ねていきます。 小さな雲を集めて適した形と大きさに加工していく天使、積み上げていく天使、全体の形を整える天使・・・ そして、隣を見ると東側の雲もみるみる雲が天に向かって立ち上って行くのが見えました。 二つの巨大な雲の山・・・ その周りを飛び回る天使たち・・・ 何ともいえない壮大で美しい光景です。 〈先生、お茶でもいかがですか?〉 見とれていた私に声をかけてきたのはサラでした・・・ つづく。 第4章・『祭典』・・・2話 「サラ・・・ちゃんと来ていたんだね、楽しめてるかい?」 見る度に美しく思えました・・・ 〈はい、祭典は昔から好きでしたから〉 「そうだったね、いつも飛び回って喜んでいたね」 〈懐かしいですね・・・両親が忙しかったのでいつも先生の側に居たように思います〉 「そうだね・・・」 このままずっと・・・そう思わずにはいられませんでした。 〈・・・〉 そして、その思いは心が見えてしまうサラには伝わってしまったでしょう 「・・・」 しばらく私たちは黙ってしまいました。 すると突然、終わりを告げる鐘が鳴り響きました。 そして、また大歓声が沸き上がりました。 〈さぁ、先生!結果が出ますよ、私たちも行きましょう!〉 サラはそう言って私の手を引きました。 「・・・そうだね、行こう」 私とサラはみんなが集まる祭壇の前に飛びました。 〈どちらが勝つのでしょう?〉 「あれだけ高いと、ここからでは同じように見えるが、今年はどうか勝って欲しい・・・」 〈東側が三連勝ですものね・・・きっと今年は勝ちますよ、勢いがありましたから〉 〈皆、本当に一生懸命だったからね」 〈先生は本当にいつもみんなのことを考えていますね・・・〉 「あぁ、皆を愛している」 〈きっとみんなも先生を愛しています・・・〉 「だと、嬉しいが・・・」 すると、歌隊天使の音楽と共に双方の代表する主天使様が祭壇にあがりました。 いよいよ結果です。歓声はおさまり、皆、息を呑んで注目しました。 〔勝者・・・西方!〕 その瞬間、いっそう大きな歓声が沸きあがりました。 〈やったー!先生、勝ちましたよ!良かったですね〉 「あぁ、本当に良かった」 見渡すと皆、声をあげ、飛び回り舞い踊っていました。 そして・・・ 〔さぁ、皆、クライマックスだ!〕 祭壇の主天使様がそう声を上げると、東西関係なく双方の立ち上った雲の上を目指し、力天使たちが飛び立ちました。 〈もう終わりですね・・・〉 「そうだね・・・」 立ち上がる雲に注目しているとゆっくり双方の雲の先端が近づき、繋がっていきます。 雲はとても大きな架け橋となるのです・・・ 〈見事ですね・・・〉 「あぁ、美しい・・・」 雲の架け橋は光を吸収し、黄金色に輝きます。誰もがそれに見とれていました。 そして、しばらくするとまた鐘が鳴り響きました。 祭典はこれで終わりました。 そして、祭壇に立つ主天使が皆に向かって言いました。 〔祭典は終わりましたが、今より熾天使様と智天使様より直々に重要な話があるので、皆、心して聞くように!〕 みんな静まり、祭壇に注目した。どうやら熾天使様と智天使様から話があることは私だけではなかったようです。 〈先生、直々にってここに熾天使様と智天使様が来られるのですか?先生はお会いになったことありますか?〉 「いや、私も初めてだ・・・会ったという者に聞くと、光る霧のようだったとか・・・」 〈私たちと同じ姿じゃないということですか?〉 すると突然、私とサラの後ろから誰かがその質問に答えた。 〔神様と同じ、姿などないのだよ〕 トマスだった。 「トマス・・・この前はどうもありがとうございます。ところで姿がないとはどういうことです?」 〔肉体がないということです。エーテル・・・とても強いエネルギーを持つ魂といったところです・・・とにかく今から見るのは私たちにあわせた姿です。それより先生、この美しい女性は?〕 〈サラといいます。先生に昔からお世話になっている者です〉 〔私はトマスです。私も先生にお世話になっている者です。お二人はお付き合いに?だとするとあなたは幸せです、先生のような素敵な天使は他にはいませんよ〕 〈・・・〉 「いえ、そういう関係では・・・」 〔・・・そうですか、私の勘違いだったようですね〕 「・・・」 そして、話が途切れたその時、辺りが静かにどよめきました。 いよいよ現れるようです・・・ つづく。 第5章・『変動』 祭壇の上を見ると白く輝く霧? いや、もっとさらさらとした粒子のような物が漂っていました。 〔現れになった・・・〕 と、トマスがつぶやきました。 〈あれが?〉 皆が注目する中、その光る物は2つに別れ、それぞれゆっくりと何かの形になっていきました・・・ それは光りを放つ天使でした・・・ 4枚の翼を持つ天使と6枚の翼を持つ天使・・・ その姿は男性にも女性にも見える中性的な美しさでした。 「トマス、どちらが智天使様なのですか?」 〔4枚の羽をお持ちになっている方が智天使様です。あらゆる知識と知性をお持ちになっています。一方、熾天使様は圧倒的な力をお持ちになっています。双方とも罪や汚れを浄化できる神様の分身だとも言われています〕 「・・・」〈・・・〉 私もサラもそこに居た皆も、その神々しい美しさに言葉も出ず、見とれていました。 そして、いよいよ智天使様の話が始まったのです・・・ 『祭典、見事であった。こうして我らが降り立った理由は改革のためである。我々は天地創造より神に使え、人の為に神からの使命を果たしてきた。しかし、それも今日限りとし、この時をもって終えることにする。すなわち人への使命を全て止めることとする。』 もちろん、その言葉に誰もが驚き、騒然としました。 すると、主天使の1人が、 〔静まりなさい!まだ話は終わってはいません!〕 と、叫びました。すると、皆も落ち着き、また耳を傾けました。 『人は今や我々の力も超える勢いで進化し、堕ち、我々の力を必要としないものと考える。なお、今までの使命は形を変え、新たな使命を与える。我々はこの星と共に存在する、この世界を守る使命として今までと同じようにまっとうするよう望む。それでは後の詳しいことはこの後、主天使にゆだねるので皆、天使らしく今までどおり愛を持って愛を作り出す存在であるように!では、続いて熾天使より話がある』 全てが理解できないまま、今度は熾天使様の話が始まりました・・・ 『この前より使命を拒否し、騒ぎ立てる者たちよ、一つ上がりなさい』 熾天使様はそう言って私たちに手をかざしました。 熾天使様が私たちに手をかざすと自主的に浮かぶ者もそうでない者も熾天使様の力で浮き上がったのです。その数は50人ほども居ました・・・ 私はもちろん彼を探しました。 「オルガ・・・」 彼は私の後ろ側に居ました・・・唇をかみ締めうつむいていました・・・ 『人との接触が多く、長い間辛かったであろう・・・ご苦労であった・・・しかし、いき過ぎた思想と行為で皆を惑わせ、中には人に罰を与えようといた者もいる。それはとても恐ろしい危険な考えである。そして、そこまで追い詰められたことを悲痛に思う・・・思い出しなさい我々はどうあっても愛しか持たぬということを!そして、忘れなさい、苦痛の日々を!』 そう熾天使様が言うと、熾天使様の手から光が放たれました。その光は彼らを包み、より強く光りました。そして、その光が消えると・・・ 「なんと・・・」 皆がどよめきました。光の中から姿を現したのはプット(赤ん坊)だったのです。 〈生まれ変わった?〉 「いや、生れなおしを与えたんだ・・・」 〔慈悲なのでしょう・・・〕 そして・・・ 『身内の者、身近な者よ、手を伸ばし抱きかかえてやりなさい』 そう言うと、周りの天使たちが手を伸ばし抱きかかえました。 『では皆、愛を持って行動するように』 そう熾天使様は言い、智天使様とご一緒にまた光り輝く粒子になって消えました。 皆、落ち着いてはいられず、騒然としていました。 〔先生、それでは私も他の主天使たちとこれから話してまいります〕 「はい」 トマスは居るべき場所へと戻っていきました。 〈・・・これからどうなるのでしょう・・・〉 「大丈夫、彼らを信じて今は待とう・・・」 〈先生、両親が心配なので戻ります〉 「そうしてあげなさい」 〈はい、ではまた・・・〉 「あぁ・・・」 そうしてサラも行き、皆も肩を落として帰って行きました。 誰もがこれから先のことが不安だったのでしょう・・・ こうして静かに祭典は終わりました。 数日後、それぞれに新しい使命が言い渡されました。 それはどれも大きく変わりました。 これまでの人に関わる使命は全てなくなり、これまでと同じように愛をつかさどる者として、またその特別な力によって壊れかけた自然を守り、再生し、この星に生きる全ての生命の幸せを目指すという使命に変わったのです。 しかし、力天使と私も含め生活に関わる使命を持つ者は変わりませんでした。 皆、戸惑っていました。仕方ないことです・・・ 私たち天使はずっと人と共にあったのですから。 本当に人を愛しく思う者も少なくはありません、人に愛を捧げることが生きがいだった者も居たことでしょう だから、私はまたこの事を理解、納得しない者が現れ、おかしな事になりはしないかと心配でした。 しかし、こんな時であっても、どうしても頭から離れない事がありました。 そう、サラのことでした・・・ つづく。 |